関連情報 Relation Information

日本弁護士連合会要望書

難病者の人権保障の確立を求める意見書
 
2015年(平成27年)7月16日
日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
日本国内の全ての難病者に対し,障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)を完全に実施し,また,難病者が障害者基本法の障がい者の概念に含まれる趣旨を徹底して,同法に基づく難病者法制度改革を実現するため,国は直ちに以下の施策を行うべきである。
1 国は,難病者の基本的人権を尊重し,障害者権利条約の求める共生社会の実現に向けて,障害者基本法に基づき,難病者を支援する各種法制度を有機的総合的に推進するために難病者に関する法制度を抜本的に改革すべきである。
かかる難病者に関する法制度の改革においては,少なくとも次の内容が実現されるべきである。
(1) 各制度の内容が,下記2の実態調査により判明した難病者の生活実態・障がい特性に即したものであること。
(2) 「難病者」の概念について,障害者権利条約を受けた改正障害者基本法に即し,次の考え方を採用すること。
「難病者」とは,「難病による心身の機能障害及び社会的障壁により,日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」とする。
「難病」とは,「継続的(周期的・断続的を含む。)に医療を必要とする難治性疾患」とする。
(3) 難病者への差別を禁止し,難病理解を促進するための施策を講じること。
  (4) 難病者の医療について,助成対象者の画定の在り方の抜本的見直し,重症度分類の撤廃及び低所得者の負担の無償化など,医療費負担の在り方を改革すること。
(5) 難病者の就労について,難病者が不当に差別されることなく働く権利を保障するため,難病者の特性に対応した合理的配慮の提供を具体化するガイドラインの策定を始めとする,労働環境の整備のための施策を講じるとともに,難病者を障害者雇用割当制度の対象に含めること。
(6) 小児慢性疾患に罹患している20歳未満の者(以下「難病の子ども」という。)に対する医療費助成について,疾患別の枠組みを撤廃すること。
  幼児期・青年期から成人期に向けて,切れ目なく全ての難病が医療対象疾患となるよう制度を改め,難病の子どもが自律的に病態管理できる移行期医療のシステムを構築すること。
  難病の子どもを養護する家族が求める支援を個別にアセスメントし,病態特性に合わせた柔軟な福祉制度を創設すること。
難病の子どものライフステージに合わせた適切な地域生活支援を行うサポートセンターを設立し,一貫した支援を制度化すること。
(7) 難病の子どもの教育について,障害者権利条約や障害者基本法の求める共に学ぶ教育に沿った学校教育法の運用をし,障がいや難病の有無にかかわらず,教育を受ける権利を保障し,地域とのつながりの中でその能力を発展させるための一貫性・連続性のある教育を提供すること。
また,難病の子どもが,地域の学校に在籍したまま院内学級を利用できるようにすること。さらに,学校内や通学における人的支援を拡充し,研修等により教職員・生徒の難病の子どもへの理解を促進するなどの施策を講じること。
(8) 難病者の地域生活について,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の「障害者」の定義を改め,疾患の種別,障害者手帳の有無を問わず,日常生活又は社会生活に制限を受ける者を全て対象とすること。
障害支援区分を撤廃し,社会モデルの考え方に基づく生活上の支障を基礎として福祉施策の必要性を判断する仕組みを構築すること。
病名を問わず,全ての難病者が難病相談支援センターを利用できるようにすること。
(9) 難病者及び難病の子どもに対する虐待防止について,障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律及び児童虐待の防止等に関する法律の虐待の定義を見直し,医療機関従事者による虐待をそれぞれ「障害者虐待」及び「児童虐待」に加えること。また,難病に起因する虐待への対応方法を改善し,養護者による虐待について,養護者への支援の仕組みを作ること。
2 実効性のある難病者の法制度改革を実現するため,国は,早急に,難病者の医療,雇用,難病の子どもの生活,教育,難病者の地域生活,難病者に対する虐待等の実態調査をすべきである。特に,難病の子どもに対する,院内学級・訪問教育の全国的な実態や難病の子ども及び難病者に対する虐待の実態の解明は喫緊の課題とされるべきである。
 
第2 意見の理由
1 抜本的な難病者法制度改革を求める理由
(1) 難病は,全ての市民における普遍的な人権問題であること
本意見書が対象とする難病者は,難病に起因して様々な社会生活上・日常生活上の不利益・障壁を抱える市民である。
全ての市民に難病に罹患する可能性があることからすると,現行の難病者法制度が抱える問題点は,一部の者だけの問題ではなく,全ての市民が安心して暮らしていくために共通の普遍的な人権問題である。
(2) 当連合会のこれまでの取組及び基本的姿勢
当連合会は,第54回人権擁護大会「障害者自立支援法を確実に廃止し,障がいのある当事者の意見を最大限尊重し,その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」(2011年10月7日付け)において,国に対して「難病等が法の対象となるよう障がいの範囲を広げることなど制度の谷間を作らないこと。」を求めている。
また,当連合会は,多くの貧困な患者が経済的理由により医療を受けることが困難となっている現状につき警鐘を鳴らし,患者の権利が経済的負担能力によって差別なく保障されるべきであることを提言してきた(当連合会「患者の権利に関する法律大綱案の提言」(2012年9月14日付け))。
(3) 「制度の谷間」(支援対象となる疾患が限定されていること)問題とその現               状
「難病」とされる疾患は7000以上存在するともいわれる。しかし,かかる疾患に罹患した難病者のうち,医療費助成等の福祉制度を利用できる難病者は極めて一部の者に限られており,「制度の谷間」に置かれ,何らの福祉制度も利用できない難病者が多く存在する。
かかる「制度の谷間」に置かれる代表的な疾患に「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」がある。同疾患は,全身を裂くような痛みを伴う原因不明の難病で,重症化すると周りの空気の移動,かすかな音や光による軽微な刺激でも激痛がはしるという過酷な症状が現れ,日常生活に多大な支障が生じる。
しかし,確定診断がつきにくく,希少疾患でもないことから,難病者法制,障害福祉施策いずれの対象にもならず,制度上は「健康な者」として扱われてなんらの支援も及ばない。
(4) 難病者施策の推移と問題点
(1) 難病対策要綱の制定と医療に対する支援の問題点
日本における従来の難病者施策は,1972年に厚生省(当時)の作成した「難病対策要綱」に基づき行われてきた。
かかる施策は,次の異なる二つの目的が混在する仕組みとなっていた。
A 調査研究目的=患者数の希少な疾患の患者に対し,医療費助成などによって受療を促進し,症例数を確保して治療法研究を行うこと。
B 生活支援目的=患者の経済的負担を軽減して良質な療養環境を確保すること。
この仕組みの下では,医療費助成を行う「特定疾患治療研究事業」の対象疾患(以下「特定疾患」という。)となるか否かにより,待遇に大きな格差が生まれた。そして,上記の混在した目的を反映し,特定疾患の対象となる疾患の要件として,「ア 希少性」「イ 原因不明」「ウ 治療方法未確立」「エ 長期の生活面の支障」という「難病4要件」を課すことが基本的方針とされた。
そのため,同施策は,難病者の生活支援のための施策という側面を有するにもかかわらず,希少な疾患でなければ制度対象とならないこととなり,過酷な病態で苦しむ多くの難病者は救済の埒外に置かれることとなった。
(2) 難病者の生活面に対する福祉施策の遅れ
上記のとおり,従前の難病者施策は,医療を重視した施策であったため,「生活者」としての難病者に対する福祉施策の確立が遅れていた。
日本の障がい者福祉施策においては,身体・知的・精神のいわゆる「三障害」ごとに制度が発展してきたところであるが,難病対策は疾病対策として医療問題の中に置かれていたため,障がい者施策としての位置付けは長らく遅れていた。1993年,心身障害者対策基本法が障害者基本法に改正された際の参議院厚生委員会において,初めて,難病に起因する者で長期に生活上の支障がある者については,障がい者の範囲に含まれるべきと確認されたが,法文化はされずその旨の「付帯決議」がなされるにとどまった。
(5) 現在の難病者施策の仕組みと限界
(1) 「難病の患者に対する医療等に関する法律」(「難病法」)の制定
厚生労働省において2009年頃から難病対策改革の検討が進められ,2013年12月13日の第35回厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会において「難病対策の改革に向けた取組について」と題する報告書が,同日開催された社会保障審議会児童部会「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」において「慢性疾患を抱える子どもとその家族への支援の在り方(報告)」が,それぞれ取りまとめられた。そして,各報告書概要に基づき,2014年5月23日,「難病の患者に対する医療等に関する法律」(厚労省はこれを「難病法」と略しているため,本意見書においては,『「難病法」』という。)及び「児童福祉法の一部を改正する法律」が成立し,2015年1月1日から両法が施行された。
これらの法律は,難病者施策が法制度化されたという意味で重要な意義を有し,治療研究を効果的に推進する役割を果たすという点において評価される。
(2) 「難病法」と総合支援法に基づく現行制度の仕組み
当連合会が廃止を求めてきた,「障害者自立支援法」は,2013年4月から「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「総合支援法」という。)と名称を変えると共に,難病者を障がい福祉施策の対象とする改革を行った。
そのため,現行の難病者施策は,医療費助成は「難病法」に,福祉施策は総合支援法に基づき,各法に基づく政令で指定された疾患対象者にだけ実施される仕組みとなっている(以下,本意見書において,「難病法」に基づく政令指定の疾患を「医療費対象疾患」,総合支援法に基づく政令指定の疾患を「福祉対象疾患」という。)。
(3) 現行の難病者法制度の問題及び限界
「難病法」制定前の医療費対象疾患数は56であったところ,2015年7月には,306に拡大した。また,福祉対象疾患数も130から332まで拡大した。
しかしながら「難病法」も総合支援法も,厚生労働省が政令で指定する疾患だけを支援対象とする「限定列挙方式」を採用している点においては,従前と何ら変わりがない。
かかる「限定列挙方式」の下では,政令で指定されていない者は,難病者・障がい者に対する施策から遮断・排除されることとなり,かかる「制度の谷間」に置かれた難病者に対しては,支援が永遠に及ばない。
(4) 「難病法」に基づく対象疾患の範囲の問題点
「難病法」は,「難病の患者に対する医療等に関する法律」との名称から明らかなとおり,医療分野を主眼とする基本的性格をそのまま維持している。すなわち,「難病法」においても,前述の調査研究目的と生活支援目的の混在による難病対策要綱の根本的矛盾は全く解消されていない(1条参照)。
その上,「難病法」においては,難病の要件として,従来の「難病4要件」に,新たに「オ 客観的な診断基準の確立していること」という要件を加えた「難病5要件」という過度な要件を課している。このため,治療研究の対象となるべき疾患以外の多くの疾患が対象から外れている。
(5) 総合支援法に基づく対象疾患の範囲の問題点
総合支援法に基づく福祉対象疾患について,厚生労働省は2014年11月,難病5要件のうち「ア 希少性」,「イ 原因不明」を外す方針を打ち出した。
しかしながら,2015年7月時点でも,医療費対象疾患数は306,福祉対象疾患数は332と,両者に大きな違いはなく,真に生活支援の観点から福祉対象疾患が検討されているとはいい難い。
2 難病者法制度のあるべき理念(意見の趣旨前文及び1項柱書)
(1) 基本的人権保障を目的とする難病者法制度であるべきこと
従来の難病者をめぐる諸制度は,調査研究目的などが混在した制度であったため,極めて厳格な要件の下に一部の者だけを対象とする不公平を放置してきた。
これを是正し,今後,難病者法制度は,憲法に基づく,生命,自由及び幸福追求に対する権利(13条),平等権(14条),生存権(25条)を保障することを目的とする制度であることが明確にされることが必要である。
この点,障害者権利条約が,障がいのある人に障がいに基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を認めている(同条約25条)ことからしても,全ての難病者の基本的人権が尊重され,到達可能な最高水準の健康を享受しうるよう,難病者の特性に応じた制度の谷間のない包括的な施策が総合的に推進されなければならない。
(2) 障害者権利条約と障害者基本法が採用した障がい者の社会モデルによる定義に則した同条約と同法の認める権利主体としての難病者の法制度であるべきこと
日本は,2014年1月20日に障害者権利条約を批准し,同条約は,同年2月19日から国内法的効力が生じている。ゆえに,国内の難病者概念及び難病者法制度は,同条約に合致する必要がある。
同条約の基本的な理念は,「障がい(者)の医学モデルから社会モデルへの転換」である。障がい(者)の社会モデルとは,支障・不利の原因を障がいのある個人に求めず,支援を怠る社会の側に障がいの原因があるという考え方である。そして,障がいのあるなしに関わらず共生する社会を実現することが条約の目的である。
2011年に改正された障害者基本法2条の障害者の定義も,かかる障がい者の社会モデルに準拠した定義を採用している。すなわち,同条は,「障害者」の定義を「身体障害…その他の心身の機能の障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とし,「社会的障壁」の定義を「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のもの」としている。このような定義からすれば,難病も心身の機能の障がいのある者として「障害者」に含まれると解するべきであり,日本政府も「難病に起因する障害につきましては,やはり障害者基本法2条1号の『その他の心身の機能の障害』に含まれる」旨答弁し(2011年6月15日衆議院内閣委員会・内閣府大臣政務官答弁),改正障害者基本法の「障害者」の定義に難病者が含まれることが確認された。
今後の難病者の概念は,障害者権利条約,障害者基本法の採用する障がい者概念に即したものとし,その趣旨を徹底すべきである。
そして上記のとおり,日本においては,従来,難病者は,研究の対象として位置付けられてきたところである。しかし今後は,同条約や障害者基本法の理念に基づき,人権・権利の主体として捉え直す必要がある。そして,難病の有無に関わらず共生する社会を実現する法制度に転換することが求められる。
3 新たな「難病者」概念の提言(意見の趣旨1項(2))
対象疾患に指定された疾病の患者という一部の者だけに支援が及び,対象疾患に指定されない疾病の患者が支援から排除される不公平な現行制度を抜本的に変革するためには,難病者概念を障害者権利条約及び障害者基本法に基づき,次のとおり変革すべきである。
まず,難病者は障がい者に他ならない以上,難病に起因する障がい者は,社会的な障壁との関係性から定義付けられるのが当然である。
すると,治療研究事業の対象確定の目的から必要とされた,「ア 希少性」「イ 原因不明」「ウ 治療方法未確立」「エ 長期の生活面の支障」「オ 客観的診断基準」の難病の5要件のうち,エの要件以外は不要となるから,撤廃すべきである。
したがって,「難病」については,「継続的(周期的・断続的を含む。)に医療を必要とする難治性疾患」と定義付けるのみで足りる。
また,障害者権利条約,障害者基本法に忠実に難病者の概念を捉え,「難病者」(難病に起因する障がい者)を,「難病による心身の機能障害及び社会的障壁により,日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」とすべきである。
もっとも,かかる難病の定義によると,精神障がい者の大多数も難病者に含まれてしまうことから,かかる難病の定義を実務的に採用する際には,「ただし,既に他の障がい者施策体系が樹立されている場合は当該体系に基づく制度を優先適用する。」等のただし書が必要となる。
4 難病者への差別を禁止し難病理解を促進するための措置の必要性(意見の趣旨1項(3))
現在の日本では,難病について,「希少性」の要件を中心として施策を検討してきたことの影響もあり,「難病」を「自分には関係のない,極めて少数の人の特殊な問題」と考える社会認識が蔓延しており,これが難病者の人権問題を社会に顕在化させない要因ともなっている。しかし,ある日突然,原因不明の病にかかるということは誰にでも起こりうることであり,難病は,決して,「自分には関係のない,極めて少数の人の特殊な問題」ではない。
また,難病者の抱える苦痛には,社会生活を送る上で,周囲・社会から理解されないことに起因するものがある点に特色がある。かかる苦痛の除去のためには,難病への正しい理解を周囲に広げることが不可欠であるが,未だ無理解(原因が分からないならば病気とはいえない等)・偏見(怠けているだけだ等)が根強くある。そのため,難病者に対する支援を充実させ,安心して病気を明かすことのできる社会,そしてそのことによって社会的不利を生まない社会への変革が強く求められている。
このような差別や偏見の解消も目的として「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(「障害者差別解消法」)が2016年4月から施行される。同法については,「基本方針」が2015年2月24日付けで閣議決定され,かかる「基本方針」において,法対象者として「その他の心身の機能の障害(難病に起因する障害を含む。)」と難病者も含まれることを明記している。しかし,かかる「基本方針」において,難病者の特性に応じた差別解消措置は見当たらず,難病者に対する差別解消,理解促進のための方策は不十分である。
したがって,国は,難病が少数の者の特殊な問題であるという誤った社会認識を是正するために,難病者に対する差別を解消し,理解を促進する方策を講じるべきである。
5 難病者の実態調査の必要性(意見の趣旨1項(1)及び2)
難病者の医療や生活には,以上で述べたような様々な困難があるところ,難病者の置かれている状況について,これまで国は十分な実態調査を実施したことはない。難病者の置かれた状況を把握することは,難病者に対して必要な施策を検討し,実現するに当たって必須であることから,国は,難病者の医療,雇用,難病の子どもの生活,教育,地域生活,虐待等の実態を早急に調査すべきである。
具体的には,次のような調査が必要である。
(1) 医療
難病者に対する医療について,十分な医療を受けられていない難病者の実態などを含め,早急な調査が求められる。
(2) 雇用
難病者の労働環境,難病者の就労に支障となる様々な要因,必要な合理的配慮を含む施策について,実態調査が求められる。
(3) 子どもの生活実態
難病の子どもの生活実態については,これまで調査が実施されたことがなく,その詳細が不明であることから,調査が求められる。
(4) 教育
難病の子どもの教育の分野では,難病の子どもが病院内又は在宅においてどのような状況にあるのか,国が把握していないのが実情であることから,院内学級及び在宅医療を受けている子どもに対する教育保障の実態調査を行うべきである。
なお,この点において,文部科学省は,2015年5月下旬,長期入院中の生徒に関する調査の結果を公表し,2013年度の1年間に30日以上の長期入院をした延べ6349人の生徒のうち,4割に当たる2520人に対し,在籍校による学習指導が行われていない等の深刻な実態の一端を初めて明らかにした。文部科学省が入院中の子どもの調査に初めて着手したこと自体は評価できることであるが,かかる調査の対象の中に難病の子どもがどの程度含まれているのか等,難病に主眼を置いた調査は依然として行われていない。
また,難病が理由で通学困難な生徒が「不登校児」として扱われ,学習を受ける権利の侵害が放置されている可能性も危惧される。
以上のような点を踏まえ,国は改めて,入院している生徒及び退院後通学に至っていない難病の生徒に対する教育の実態について,喫緊の課題として全国的な調査を行うべきである。
(5) 虐待
難病があることは,一見して分かりにくいことがあるため,怠けていると誤解されるなど,心理的虐待を受けることも多い。また,支援や介護が必要なことが見過ごされ,ネグレクトを受け,生命の危機に陥ることもある。加えて,難病の女性は,自分を守る力が弱いために養護者や医療従事者からの性的虐待を受けている者が相当数いるものと推測される。
2014年11月25日,2013年度障害者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果報告書が公表された。しかし,障がい種別は,「三障害」,発達障がいと「その他」であり,障がい種別ごとの統計には,「難病」という種別はない。
このため,難病者の虐待被害の実態が不明である。
児童虐待については,全国の児童虐待相談対応件数が公表されているが,基礎疾患は調査されておらず,難病の子どもの虐待の実態も不明である。
したがって,難病者について適切かつ迅速に虐待認定がなされ,難病者の特性に応じた虐待対応を取るためには,まず,どれほどの難病者がどのような虐待を受けているのか実態を把握することが必要不可欠である。
今後の障害者虐待防止法に基づく調査においては,障がい種別の「その他」に区分することなく,難病者に対する虐待について独立の項目を設けて,調査すべきである。
(6) 福祉制度
総合支援法の改訂により,一部ではあるが難病者も障がい福祉の利用が可能となった。しかしながら,実際に利用できている難病者は一部に留まるといわれている。そのため,難病者に制度が周知されているか,医療機関の窓口に障がい福祉制度が利用可能となったことの掲示等がなされているか,利用ができていない原因は何か等の調査が必要である。
(7) 所得水準
難病者の所得保障制度構築のため,プライバシーに配慮しながら所得水準の実態調査を実施することが必要である。
6 難病者に関する各分野の法制度改善の必要性(意見の趣旨1項(4)~(9))
難病者に関する各分野の法規に関しては,次のとおりの法制度の改善が必要である。
(1) 難病者の医療を受ける権利の保障
(1) 難病者の医療を受ける権利の意義
ア 到達可能な最高水準の健康を享受する権利(障害者権利条約25条)
障害者権利条約は25条で,「締約国は,障害者が障害に基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認める。」とした上で,締約国に対し,「障害者に対して他の者に提供されるものと同一の範囲,質及び水準の無償の又は負担しやすい費用の保健及び保健計画(性及び生殖に係る健康並びに住民のための公衆衛生計画の分野のものを含む。)を提供すること」を求めている(同条a項)。
同条(a)項の公定訳である「無償の又は負担しやすい費用の保健」の原文は,「free or affordable health care」である。「affordable」とは,「手頃な」「入手可能な」という意味である。条文上,「無償の」と併記されていることからも分かるように,可能であれば無償,そうでなくとも負担感なく支払える費用によって保健サービスを利用できるようにすることが権利条約の趣旨であることに鑑みれば,継続的な治療を断念せざるを得ないほど高額な費用負担を強いる医療制度は,同条約違反である。
イ 当連合会の「患者の権利に関する法律大綱案の提言」における各権利の保障
当連合会は,「患者の権利に関する法律大綱案の提言」において,「安全な医療を受ける権利」,「自己の生命・身体・健康などに関わる情報を知る権利」,「医療上の自己決定権」,「医療上のプライバシーの権利」,「医療上の学習権」,「医療に参加する権利」,「医療情報にアクセスする権利」等を規定すべきことを提言している。
(2) 現行難病医療制度の現状と課題
ア 難病対策要綱の矛盾を解消する必要性
既に述べたとおり,「難病法」は,難病者法制度が法的根拠を有するに至った点において評価されるが,「調査研究と生活支援という目的の混在」という従来の矛盾は解消されていない。その結果として,疾患名で法の適用対象者を確定する手法も存続している。
イ 新たな課題
さらに「難病法」は,次のような新たな課題も生み出している。
(ア) 重症度分類(難病法7条1項1号)の不合理性
「難病法」では,特定医療費(同法に基づく医療費助成)の支給認定につき,従来の指定難病の診断に加えて「その病状の程度が厚生科学審議会の意見を聞いて定める程度であるとき」が要件に加えられた(同項2号に例外規定あり)。かかる要件は,「重症度分類」と呼ばれる。
しかし,難病は,発症初期の段階でどれだけ充実した治療を受けたかで,その予後が大きく変わる。そして,発病初期は費用負担の軽い治療方法で済むとは限らない。難病者の医療費の多寡は,症状の軽重とはさほど関係がなく,軽症でも,症状の維持改善のために高額な医療費を要することもある。そのため,軽症の段階であるにもかかわらず,医療費助成が受けられないことで,有効な治療法の断念を余儀なくされることがある。このことは,結局,難病者の症状の重症化を招き,生活の質を著しく低下させ,かえって治療費を増大させ,長期的には財政負担を更に悪化させる要因ともなる。
また,重症度分類の「基準」は,医学的な数値によって決められるが,難病者の症状は数値だけで図れるものではない。さらに,難病と一口に言っても,その症状は疾患類型によって千差万別である。疾患が異なれば,重症の程度も全く異なる。そのため,重症度分類により,疾患間で公平に対象者を区切るのは極めて困難である。
(イ) 医療費負担割合の在り方
「難病法」は,(1)患者負担を3割から2割に引き下げる反面,(2)所得に応じた負担上限額を新たに設定した。そのため,「難病法」は従来負担がなかった低所得者(市町村民税非課税世帯)に負担を負わせることとなった。
厚生労働省は,「難病法」に自己負担を導入する際,障がい者の現行医療制度である,総合支援法の中の「自立支援医療制度」と水準を合わせる旨説明した。
しかし,障害者自立支援法違憲訴訟団と国(厚生労働省)との基本合意文書(2010年1月7日付け)において,国は,自立支援医療が低所得者に対し自己負担を課している点は問題であり,早期に無償化を目指すべき重要な課題であると位置付けていた。それにもかかわらず,国が低所得の難病者に自己負担を導入したことは背理であり,むしろ,少なくとも低所得者に対しては無償とすべきである。
この点,当連合会は,次のとおり,「難病患者の生きる権利を支える医療費助成制度を求める会長声明」(2013年12月19日付け)を公表し,政府の新たな医療費負担制度について強く批判した。
「当連合会は政府に対して,難病患者も障害者として,真に制度の谷間のない支援制度を構築することとした障害者権利条約や障害者基本法の趣旨に照らし,いかなる難病であっても,症状の軽重にかかわらず,等しく尊厳ある個人として生きることを保障する医療費助成制度を求め,政府案の根本的な見直しを強く求めるものである。」
(3) 難病者法制度改革における医療分野での提言(意見の趣旨1項(4))
以上のとおり,難病者施策が抱え続けてきた課題は,難病法が成立してもなお解消されることがなく,逆に深化しているとさえ言える。
よって国は,難病者の医療について,助成対象者の画定の在り方の抜本的見直し,重症度分類の撤廃及び低所得者の負担の無償化など,医療費負担の在り方を改革すべきである。
(2) 難病者の働く権利の保障のための合理的配慮の徹底及び制度改善
(1) 難病者の働く権利の意義
働くことは生計を維持する基盤であり,自己実現の場でもある(憲法13条,22条1項)。障害者権利条約27条が保障する労働の権利は,難病者にも保障され,同条約が求める合理的配慮の提供や,労働の機会を実質的に確保するための様々な施策が求められる。障がい者の雇用に関する障害者雇用促進法にも,障がいを理由とする差別禁止規定が設けられ,民間事業者には,障がい者への合理的配慮の提供が義務付けられている。
難病者の場合,体調や生活環境等に応じて働き方は様々で,短時間しか仕事できない人もいるため,難病者が職業生活を送るためには,難病特性に即した合理的配慮が必要である。また,通院や服薬をしつつ体調に合わせて働くために,職場での難病に対する理解が求められる。
したがって,難病者の働く権利を保障するためには,難病特性に応じた合理的配慮と難病に対する理解が不可欠である。
(2) 難病者が労働場面で置かれている現状と課題
ア 難病者は,「難病者は働けない」という偏見のために,雇用主側から,病気や通院等を理由として採用拒否や雇用継続拒絶等の不利益扱いを受けやすい。難病を告知することによる不利益を避けるため,病気を隠して働かざるを得ない者も多い。しかし,病気を隠すことは,体調や働き方に対する配慮の提供の機会を奪う。通院もままならず,結果として体調を崩して結局仕事を失いうる。難病者の就労の機会は極めて制限されているのが現実である。幼少からの難病者は,同世代の者よりも経験する生活体験や職業体験が少ないことが多い。
また,難病者の健康,医療等に関する正しい知識が職場内に浸透していないため,これまで問題なく働いていた人が突然難病を発症した際にも,本人の意図しない配置転換や退職強要等の不利益処分を受けるなど,雇用主や同僚等からから差別・偏見を受けることがある。難病者が病気や通院を理由にパワハラやいじめの対象になるとの報告もある。治療に伴う休職後に職場復帰しようとしても,雇用主から拒絶されて労働継続を諦めれば,経済活動から疎外される。加えて,難病者は障害年金や手帳を取得できる者は少ない。
一方,難病者が職場で不当な扱いを受けた場合,病気は自分の責任であるとの意識から,異議を申し立てないことが多いため,問題が顕在化しにくい。
イ 難病者の就労機会確保のためには,就職後も労働を継続できる環境設定が重要である。通院時間を考慮したシフト変更,体調に合わせた職場配置,労働時間調整,在宅勤務,職場内の医療環境(医療従事者,薬品設置装置等)整備,就労支援員の配置等の合理的配慮の提供が求められる。これらの合理的配慮は,過度の負担なく実現可能な場合がほとんどであるが,実現されている職場はまれである。
この点,国は,雇用促進法ガイドラインの中で,難病に起因する障害に対する合理的配慮の例として,採用時の面接での体調への配慮・就労支援者の同席,採用後は支援担当者を定め,通院・体調に配慮した勤務時刻,業務量等への配慮,プライバシーに配慮した上で,他の労働者に対し,障害の内容や必要な配慮等の説明をすること等を挙げている。また,難病者の労働支援対策として,難病に関する知識や普及啓発,難病相談・支援センターと労働支援機関等との連携強化等を掲げている(厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会)。この方針はいずれも重要であり,さらに充実が求められる上,現実に徹底されているかの調査も必要である。
ウ また,障害者雇用促進法の定める雇用割当制度は,障害者権利条約の「積極的差別是正措置」に位置付けられるが,雇用割当制度の対象は障害者手帳を所持する者に限定されており,障害者手帳を持たない難病者は制度対象外である。
難病者が雇用割当制度の対象外とされることは,障害者たる難病者の就労の機会を奪う結果となっている。
(3) 難病者の労働分野における提言(意見の趣旨1項(5))
ア 労働分野における合理的配慮と就労支援
国は,特に次の施策を行うべきである。
職場における合理的配慮の提供・差別の禁止を徹底するため,難病者の労働事情に関する実態調査を踏まえて,労働時間調整,通院機会確保,就労支援員の配置等難病者の特性に合わせた合理的配慮の提供に関するガイドラインを充実させ,また,事業者に対する周知徹底を図るべきである。特に,労働時間調整や職務調整が業績,勤務評価,賃金等において不利益に取扱われないことが保障されなければならない。
また,中途発症者を含む難病者の就労機会確保のため,ハローワークや難病相談センター等の支援機関,ケースワーカー,医療機関等が連携しながら支援する仕組みが必要である。さらに,職業訓練及び継続的な訓練を利用する効果的な機会の確保を徹底するよう,各種助成や制度改善を図るべきである。特に,職業相談や職業訓練等,就労に結びつけ,就労定着させる支援が不可欠である。職場での職業リハビリテーション,職業の保持・職場復帰計画の促進を図ることも重要である。
そして,これらが実際に実践されているかの検証も行われるべきである。
イ 障害者雇用促進法の適用
障害者雇用促進法の雇用割当制度を改正し,障害者手帳を所持しない難病者も同制度の対象であることを明確にし,運用面でも難病者は手帳要件にかかわらず,医学的判断やアセスメント等に基づくなどして同制度の対象と認定される制度設計を構築すべきである。
(3) 難病の子どもに対する支援を提供される権利の保障
(1) 難病の子どもの権利の意義
障害者権利条約は,障がいのある子どもについて,その自由な意見表明,障がい及び年齢に適した支援を提供される権利を保障している(7条)。また,子どもの権利条約は,子どもが家族と分離されずに養育される権利(9条),養護する家族の事情に適した支援を可能な限り無償で受ける権利(23条)を保障する。
子どもは,家族と分離されずに十分な愛情を享受し,地域に根差して生活することで健やかな成長を遂げる。障がいのある子どもは,医療・福祉・地域生活・教育の各分野において,障がい及び年齢に応じた適切な支援を受けることが必要である。
(2) 難病の子どもが置かれている現状と課題
ア 医療費助成
(ア) 子どもの医療費の状況
難病の子どもは,国内に約20万人いるといわれる。厚生労働省によれば,難病の子どもの一人当たり平均年間医療費は約169万円であり,子ども全体の一人当たり平均年額医療費(約8万円)の約20倍にも及ぶ。
しかし,国の医療費助成の対象となる難病の子どもの数は,全体の半数となる約11万人に過ぎない。その原因は,国が,医療費助成を医学的な研究事業である小児慢性特定疾患治療研究事業(以下「小慢事業」という。)と一本化したことにある。
(イ) 疾病別の助成制度
小慢事業は,国が「小児慢性特定疾患」を指定し,その指定疾患に罹患する子ども(原則18歳未満,引き続き治療が必要と認められる場合には20歳未満)にのみ医療費を助成する事業である。
従来,小慢事業は,指定疾患で医療費助成を限定する点で,病名がつかない又は病態変化に伴い病名が変遷する等の小児慢性疾患の特性を考慮しない著しく不合理な制度であった。
2015年1月からの改正児童福祉法に基づく新制度下において,小慢事業の対象疾患数は514から704に拡大された。しかし,疾患名により医療費助成を峻別する仕組み自体は変わっていない。
イ トランジション問題
トランジションとは,難病の子どもの成人移行のプロセスを意味する。
(ア) 医療移行が円滑に行われない問題
幼児期・青年期から成人期に向け,難病の子どもの特性に合わせた医療システムへの移行が円滑に行われない現状がある。
(イ) 医療費が突如打ち切られる問題
小慢事業の利用者は,18歳(又は20歳)に達すると医療費助成の対象から外される。704種類の疾患のうち成人期に医療費助成対象になるのは306に留まり,半分以上の疾患の医療費助成が打ち切られる。
ウ 地域生活における総合支援の不足
(ア) 難病の子どもの特性に合わせたファミリーサポートの不足
a 養護者への支援制度及び福祉制度不備
難病の子どもが在宅で過ごす場合,家族は24時間子どもの介護を丸抱えし,社会的に孤立する。しかし,難病の子どもには障害者総合支援法の重度訪問介護のような長時間の見守り支援制度は存在せず,一時的にケアを代替する「レスパイト」と呼ばれるサービスも制度的に確立していない。更に,現在の各種支援制度及び福祉制度は,養護家族世帯に対するものであって,社会的個人である父・母・きょうだいに焦点を当てていない。
b きょうだい支援の不足
難病の子どもが突然の入院をする場合に,残されたきょうだいの世話をする人がいない,入院が長期化に伴い,家族が長期間分離されてしまう等の問題が生じている。
c ライフステージに合わせた一貫した支援の不足
現行制度では,難病の子どもに対する誕生・療育・保育・就学・就労・地域生活というライフステージに合わせた一貫した支援体制が不足している。
現在,難病の子どもの支援事業として,相談(療養・巡回)事業・ピアカウンセリング・日常生活用具給付事業・難病相談・支援センター事業があるが,いずれも課題別事業であり,受動的な支援にとどまる。
2015年1月から施行された児童福祉法は「小児慢性特定疾病児童等自立支援事業」を新たに規定したが,(1)多くの難病の子どもが対象とならない,(2)児童福祉法で規定されることで,成人期との断絶が生じる,(3)個別支援計画の立案は,福祉サービスの利用を目的としており,ライフステージの視点が欠けている等不備が否めない。
(3) 難病の子どもの分野における提言(意見の趣旨1項(6))
ア 疾患名にとらわれない医療助成制度の実現
国は,難病の子どもについて,疾患名にとらわれない医療費助成制度を早急に実現すべきである。
現在の医療費助成の問題に重要な示唆を与えるのが,地方自治体における「子ども医療費助成事業」である。これは,疾患名に関係なく子どもの医療費負担がゼロとなる制度である。国は,子どもの難病医療分野において研究と助成を分離し,疾患別の医療費助成制度を廃止すべきであり,また,多くの自治体で子どもの医療費の無償化が実現できている以上,全ての子どもの医療費を無償化することも検討に値する。
イ 患者を中心とするトランジションへの転換
(ア) 患者を中心とする移行期医療を行うべきである
子どもは,医療に関する意見表明権及び自己決定権を有する。この権利を移行期医療で実現するため,難病の子どもが成人期に向けて医療行為の選択・病態管理を自律的に行える土壌を醸成するシステム作りをすべきである。
具体的には,難病の子ども及びその家族と共に,病態の変化を熟知する「小児科医」・子供の理解を支援する「カウンセラー」・福祉施策を専門とする「福祉コーディネータ」・成人後の病態をみる「成人科医」等で支援チームを組み,個別カンファレンスを行いながら, 子どもの理解力に配慮し,数年にかけて移行期支援を行うシステムを検討すべきである。
(イ) 小児期と成人期で医療対象疾患が異なる不合理は解消すべきこと
児童福祉法と「難病法」の医療対象疾患が異なる不合理な事態は速やかに解消されるべきである。
エ 地域生活における総合支援
(ア) ファミリーサポート
a 養護者の視点にたった福祉制度の策定
国は,医療的ケアを含め,難病の子どもの病態特性に合わせ長時間支援を行う柔軟な福祉制度の創設及びレスパイト制度の確立をすべきである。また,養護者である家族個人が求めている支援を個別にアセスメントし,需要と供給がマッチする適切なサービスを検討すべきである。
b きょうだい支援の仕組み作り
国は,きょうだい支援について,(1)難病の子どもの急な容態変更に対応し,きょうだいを監護する派遣型保育サポーターの仕組み,(2)病院内に遊びを中心としたきょうだいの預かり施設を設ける,(3)入院施設近くに家族で過ごせる宿泊施設を病院側と提携して設置する等の施策を講ずるべきである。
(イ) ライフステージに合わせた支援を行うサポートセンターの創設
地域生活を保障するため,難病の子どもを取り巻く各関係機関(行政機関・教育機関・就労機関・福祉機関・医療機関)の活動を一体的に管理し,子どもの誕生・療育・保育就学・就労・地域生活の各ステージをつなぐ一貫した支援を行うサポートセンターを創設すべきである。サポートセンターでは,(1)難病の子どもの情報(関係当事者・病態特性・成育歴・治療歴等)を一元化し,情報が断絶しない仕組みを構築する。(2)行政・教育・就労・福祉・医療等各組織から派遣される専門職でチーム体制を作り,ライフステージに合わせて家族を含めた個別支援計画を立案し,チーム(カンファレンス会議)で検討する。(3)支援チームは,成長に合わせて構成メンバーを適宜変更し,途切れない地域生活を支援することが考えられる。
(4) 難病の子どもの教育を受ける権利
(1) 難病の子どもの教育を受ける権利の意義
難病者も当然に教育を受ける権利(憲法26条)を有する。障害者権利条約も,難病者を含む障がいのある人に対して「あらゆる段階の教育制度及び生涯学習」を保障すべきとする (同条約24条)。
教育とは,その者の持つ能力・技術を発展させ,社会の中で生活を営む力を養うことをいう(同条約24条1項)。教育を受ける権利を保障するとは,その者の能力を発展させるために一貫性・連続性ある教育を提供することである。そして,難病者も地域の構成員として地域とのつながりの中で教育が保障されなければならない(同条約24条2項(a)(b))。
(2) 難病の子どもの教育の現状と課題
戦後,難病の子どもの多くは「肢体不自由者又は病弱者」(学校教育法施行令5条1項)として,養護学校(後の特別支援学校)に就学指定され,地域の普通学校から排除されてきた。
改正障害者基本法は,障がいのある人の特性に応じて「障害者でない生徒及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮」すべきとし(16条),障がいのある子どもも「ともに教育を受けられる」とした。2013年9月には,原則分離教育とされてきた学校教育法施行令が改められ,就学決定に当たり,保護者・本人の意向が最大限尊重されなければならないと文部科学省の通知に明言された(文科初655号平成25年9月1日)。
ア 普通学校へ通う場合の課題
(ア) 通学するための支援が不十分であること
地域の学校で教育を受けるためには,学校までの移動が保障されなければならない(障害者権利条約20条参照)。しかし,全国的な通学支援制度は存在しない。総合支援法に基づく移動支援事業の通学支援制度のある地域がある一方,通学に福祉制度が利用できず,親の付添いが求められる事例もあり,自治体ごとに支援の格差が大きい。
(イ) 医療的ケアのための支援体制が整っていないこと
難病の子どもは,痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする者も少なくない。社会福祉士及び介護福祉士法等の改正に伴い,2012年4月から,研修を受けた教職員等も,一定の条件の下で痰の吸引等の行為が可能となったものの,医療的ケアの必要性ゆえに入学を拒まれたり,親の付添いを求められるケースが依然として多い。
(ウ) 生徒の学習権を保障するための人的支援が不足していること
難病の子どもの移動や食事の介助,医療的ケアの提供等の配慮のためには,人的な支援が不可欠である。現状で利用できる公的制度としては,加配措置や特別支援教育支援員制度が存在する。
しかしながら,加配教員や支援員の数は慢性的に不足し,十分な人的支援が提供されていないことが多い。また,支援員の配置は自治体に任されており,対応に地域格差が生じている。
(エ) 学校内での啓発が不十分であること
難病の子どもは,他の子供との差異ゆえに,いじめの対象になる場合がある。また,教職員・保護者においても,根拠なき不安感・恐怖感から,難病の子どもに対する拒絶的な対応がなされるケースが発生している。
イ 院内学級へ通う場合の課題
難病の子どもは,往々にして,院内学級を利用することがある。
(ア) 院内で十分な教育を受けられていない現状があること
院内で教育を受ける子どもは,退院して進学することのできる子どもから,ターミナル期のケアが必要な子どもまで様々である。
そのため,その子どもに合った教育を保障するため,十分な人員・予算の確保が必要となる。
しかしながら,院内学級においては,公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律に基づき,上限8名までの子どもを一人の教師が対応している。そのため,教室まで来られない子どもには教育が行われていない。また,院内学級自体,配備されている病院はわずかであり,院内学級の不足により学習が保障されない現状がある。
(イ) 転籍強要のために地域の学校との連続性が失われること
院内学級は,その多くが特別支援学校の分室とされ,院内学級で授業を受けるために特別支援学校への転籍を要する。その結果,
・短期入院を繰り返すため,転籍の手続が間に合わず入院中の授業を受けることができないケース
・退院後,従前の学校へ復学することが困難なケース
・復学が困難となることから,院内学級での学習を断念するケース
等が生じている。
ウ 在宅における学習権保障の課題
現在,公教育機関において訪問教育は積極的に取り入れられていない。
そのため,入院は要しないものの通学が困難な難病の子どもの多くは,不登校児として扱われているか,病弱児として「就学免除」されていると考えられる。
しかし,このような子どもたちの正確な数や分布について,行政も関係団体も把握できていない。
 
  • (意見の趣旨1項(7))
    •  
    •  
イ 人的支援のための人員を増加すること
難病を理由に就学免除とされている在宅の子どもや,不登校児として対応されている子どもに教育を保障するため,教員数を増やし,訪問教育を積極的に活用すべきである。
また,通学支援を受けられないために通学ができない子どもや,個別対応ができないとして親の付添いを求められている子どもがいる現状を改善するため,加配教員・支援員増加のための措置を講じ,通学支援については,総合支援法の移動支援に通学支援を含むなど全国的な制度とを整えるべきである。
さらに,教職員への医療的ケア研修や看護師の配置体制を充実させるべきである。
ウ 研修等により教職員,児童及び生徒の難病への理解を促進すること
難病の子どもが就学するに当たり,本人の了解の下で,学校が難病に関する正しい知識を教職員,児童及び生徒に伝え,人の多様性及びその重要性について啓蒙活動を行う必要がある(障害者権利条約8条2項(a)(ⅰⅰ))。
(5) 難病者が地域で生活する権利の保障
(1) 難病者が地域で生活する権利の意義
障害者権利条約19条や障害者基本法の趣旨によれば,病名を問わず,難病により日常生活又は社会生活に制限を受ける者は,地域で暮らす権利が保障され,必要な福祉制度の利用が可能とされるべきである。
障がい者制度改革推進会議総合福祉部会の2011年8月30日付け「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(以下「骨格提言」という。)においても,難病者について,難治性慢性疾患のある人を含むよう幅広く捉え,障害者総合福祉法に基づく生活支援を講じるよう提言されている。
(2) 難病者の地域生活における現状と課題
ア 障がい福祉制度等に関する課題
(ア) 対象となる障がい者の定義に難病者が包摂されなかったこと 
  障害者自立支援法における「障害者」は,身体障害者福祉法,知的障害者福祉法及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の適用を受ける者に限定されてきた。
そのため難病者は,「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者」(いわゆる「三障害」)に該当しない限り,障害者自立支援法に基づく福祉制度を利用できなかった。
(イ) 総合支援法に基づく指定疾患の対象外の難病者が多いこと
障害者自立支援法を改正した総合支援法第4条1項は,難病者の一部を法の対象に加えたが,対象疾患は現在332疾患に留まっており,「客観的な診断基準が確立」されていない等の理由で総合支援法の対象から除外され,病名で切られて制度の谷間に置かれる難病者が多い。また,難病の場合,診断名がつくまでに時間がかかる場合があるが,その間も総合支援法の対象外となる。
(ウ) 総合支援法の対象疾病であっても,現にこれを利用できている難病者は極めて少数にとどまること
利用者が少数にとどまる理由については判然としないが,障害支援区分や障がい福祉サービスの類型が難病特性に合致していないことなどが一因と考えられる。
例えば,疾患によっては,症状には波があり,ある日は家事ができるが,不調時には全くできないという特性がある場合がある。しかし,障害支援区分は基本的に「できる」「できない」で認定されるため,難病者としての症状や特性が反映されにくい。
また,障害支援区分は医学モデルの視点から機能障害を重視しているため,「日常的な極度の倦怠感」「止まることのない激痛」といった症状が反映されない。
例えば補装具の電動車いすの支給には「歩行に著しい制限を受ける」ことが要件とされているところ,「少しなら歩けるが,長時間の歩行には支障がある」難病者については,「少しなら歩ける」がゆえに電動車いすの支給が認められないケースがある。
さらに,難病者が社会生活を営むためには,在宅時,入院時など,あらゆる場面で福祉的な支援と適切な医療的ケアが共に提供されることが重要である。ところが,現行の総合支援法では入院中のヘルパー派遣は認められておらず,その場合のヘルパーの人件費は自己負担するしかない。入院時コミュニケーション支援事業を行う自治体もあるが一部にとどまる。特に人工呼吸器を使用する難病者などの場合,コミュニケーション支援や体位の微調整など,個別性の高い支援が求められるところ,看護師に個別の支援を期待することは現実的ではないため,現状では,入院中に個別のニーズに即した支援が受けられることはまれである。
(エ) 家族介護が強いられる問題
総合支援法では,「障害者等の介護を行う者の状況」が勘案事項に含まれており,同居の家族の介護力を含めて介護給付の支給量が定められる。
その結果,家族がいれば,家族が難病者の介護を行うことが当たり前とみなされ,家族が仕事や通学などを断念せざるを得ない場合がある。
特に,子どもの場合は重度訪問介護の対象外であり,長時間使えるサービスがないため,親が長時間の介護を強いられてしまう。
イ 障害者手帳を前提とすることの弊害
障がいのある人に対する支援の多くは,障害者手帳の取得を要件にしている。しかし,難病者を想定した手帳制度は存在しないため,現在の認定基準では,ほとんどの難病者は,相当重症化しない限り障害者手帳を取得できず,必要な支援を受けられない。
    ウ 障害年金の対象となりにくいこと
難病者は就労が十分にできないことが多く,所得保障の観点から年金を受給する必要性は高い。しかし現在,永続する機能障害の存在が障害年金受給の前提とされており,痛みや疲労といった客観的な測定が困難な症状や,周期的,断続的な症状については十分考慮されない。その結果,多くの難病者は障害年金の対象にならない。
エ 生活相談の対象が限定されていること
  様々な制度の谷間に置かれ,福祉サービスや年金,就労支援等,必要な支援になかなかたどり着けない難病者にとって,多様な生活相談に対応できるワンストップ型の相談センターが果たすべき役割は大きい。
ところが,「難病法」により難病相談支援センターが設けられたものの,対象者は同法にいう難病の患者やその家族とされているため,同法で対象とされない疾患の者は,対象外である。
(3) 難病者の地域生活支援における提言(意見の趣旨1項(8))
ア 福祉制度利用
(ア) 総合支援法の「障害者」の定義の改正と判断方法
総合支援法における「障害者」にあたる者として,疾患を限定列挙する方法を改め,日常生活又は社会生活に制限を受ける者は全て総合支援法の対象となるよう同法4条1項を抜本的に改正すべきである。
その上で,難病や機能障害の有無,内容については医師の診断を踏まえて判断することとし,難病やそれに基づく機能障害によって日常生活や社会生活に制限を受けるか否かについては,本人の身近にいて本人の生活実態をよく知る相談支援事業者等の意見を踏まえて判断することとする等の方法が考えられる。
(イ) 障害支援区分の撤廃及び支給決定における柔軟な対応を行うべきこと
障害支援区分自体を撤廃し,社会モデルの考え方を踏まえ,生活上の支障を基礎として必要性を判断する仕組みを採用すべきである(当連合会「障害支援区分への見直し(案)に対する意見書」(2013年7月25日付け))。
仮に障害支援区分を前提とするとしても,認定調査項目を難病者の症状に合わせた内容に見直すべきであるし,二次判定や非定型審査を柔軟に活用し,難病者の個別ニーズに応じた支援が認定されるべきである。
現在,厚生労働省は障害支援区分の認定調査時のマニュアルを作成し,症状が悪い時を基準に調査をすべきとしている(2015年3月「難病患者等に対する障害支援区分認定マニュアル」等)。このマニュアルは,症状の変化という病者の特性に配慮した視点を重視する点で評価されるべきであるが,このように,福祉制度を利用できるか否かの判断の段階で,当該難病者の状態(調子の悪い時もよい時も含めて)が反映される仕組みにすべきである。
(ウ) 入院時支援制度の創設
入院時のコミュニケーション支援や個別的ニーズに対応した介助を国の事業として創設すべきである。
          (エ) 家族介護が強いられない仕組み
総合支援法の「障害者等の介護を行う者の状況」という勘案事項を削除するか,少なくとも「介護を行う者」を,「現に障害者の介護を行う意思も能力もある者」などと限定する法改正をすべきである。         
また,子どもも重度訪問介護の対象とすべきである。
イ 障害者手帳制度の抜本的見直し
障害者手帳が支援を受けるための要件となる現在の仕組みを根本的に改め,全ての支援を求める者が,骨格提言にそって,支援の必要性に関する調査を受け,必要に応じた支援を受けられるようにすべきである。
ウ 障害年金受給資格の拡大
国は,難病者の所得保障の観点から,その症状に応じて柔軟に障害者年金受給資格を認めるべきである。
エ 生活相談支援の対象の拡大
現在の「難病法」に基づく難病相談支援センターは,「難病法」で対象とされない疾病の患者も利用でき,多様な生活相談に対応可能なワンストップ型の相談センターに変革されるべきである。
(6) 難病者が虐待を受けない権利の保障
(1) 難病者が虐待を受けない権利の意義
   憲法の個人の尊厳・人身の自由の保障,障害者権利条約16条1項,障害者基本法,障害者虐待防止法等により,難病者は,虐待を受けることなく生活する権利が保障されている。
(2) 難病者の虐待被害の現状と課題
ア 現行法規の課題
(ア) 障害者虐待防止法が医療分野での虐待を対象としていないこと
同法における「障害者」とは,障害者基本法2条1号の障害者をいうとされ,難病者に対しても障害者虐待防止法の適用がある。ただ,同法が「障害者虐待」として虐待防止の仕組みについて規定しているのは,養護者虐待,施設従事者等虐待及び使用者虐待の3類型であり,医療機関従事者による虐待は含まれていない。
しかし,難病者は,医療機関と関わる時間が多いため,医療機関から虐待を受ける機会も多い。2013年度障害者虐待防止法に基づく対応状況に関する調査結果報告書によれば,同法に定める障がい者虐待以外の障がい者虐待に関する相談・通報件数のうち,相談内容に該当する機関では,医療機関が26.2%,保育所等2.4%,学校11.9%である。このことからも,医療機関における虐待が多いことが窺える。
同法は,医療機関の長に虐待防止義務を定めたのみで,医療機関従事者による虐待の防止に関する仕組みを定めていない。当連合会は,「障がいのある人に対する虐待防止立法に向けた意見書」(2008年8月20日付け)を発表し,医療機関における障がい者虐待について具体的な事例を数多く挙げ,同法制定に当たって,対象に医療機関を含めるべきことを繰り返し強く主張してきた。
(イ) 児童虐待防止法が医療機関による虐待を対象としていないこと
18歳未満の難病の子どもは,児童虐待防止法の対象となるところ,同法は児童虐待を「養護者による虐待」に限っている。
そのため,入院中の難病の子どもが医療機関従事者から虐待を受けても,同法の対象とはならない。難病の子どもは,入院期間が長期にわたることも少なくないため,医療機関における虐待を子どもの虐待に含めるべき必要性は高い。
イ 虐待被害への対応について
同2013年度障害者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果報告書では,障がい種別について,難病の項はなく,虐待を受けた難病者への対応が適切になされているのか疑問である。難病があることが把握されておらず,虐待被害に対応をする自治体担当者の難病に対する理解不足から,正しく障がい者虐待と認定されていないおそれがある。
    ウ 養護者による虐待への対応について
難病は,レスパイトなどの養護者支援の仕組みが整備されておらず,養護者への負担が大きく,虐待の遠因となっていると推察される。なぜなら,障がいのある子どものための施設に入所している被虐待児と一般地域における被虐待児を比較した虐待被害調査では,虐待された障がいのある子どもについて,子どもの側の要因として「子どもの疾病・障害」が73%と最大の要因となっている。これは一般地域の25.2倍にも上る。他方,虐待する側では,出生後親から分離されること,障がいのある子どもに愛着を持てないことが要因となっている。
家庭の問題では,「育児負担過大」が38.2%で2.1倍,「他の家族との葛藤」が12.4%で1.7倍となり,障がいのある子どもを療育している家族の過大な負担,家族内での人間関係が関係しているとされる(NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク第32回こどもの難病シンポジウム報告書)。
このような養護者による虐待に対しては,養護者に対する支援を通じて虐待を防止する対策をとることが不可欠である。しかし,難病の子どもを含む難病者の養護者に対する支援の仕組みは皆無といってよい状況であり,養護者に対する支援の仕組みの構築が課題である。
(3) 難病者への虐待被害防止のための提言(意見の趣旨1項(9))
ア 現行法規の改善
(ア) 障害者虐待防止法において医療機関での虐待も対象とするべきこと
同法は,附則2条により,法施行後3年を目途に医療機関等における虐待の防止等の体制の在り方も含めて見直されるものとされた。2015年10月1日で法施行後3年となる。早急に医療機関従事者による虐待も同法2条2項の虐待に含め,救済の仕組みを定めるべきである。
(イ) 児童虐待防止法において医療機関での虐待も対象とするべきこと
難病の子どもについても,同法2条の児童虐待の定義を見直し,医療機関における虐待も含めるべきである。
イ 障害者虐待対応方法の改善
障害者虐待への対応につき,障がい種別ごとの対応方針に「難病」に起因する虐待への対応の項を設け,難病の特性にあった虐待対応ができる仕組みを構築する必要がある。
ウ 養護者支援の仕組みの構築
養護者による虐待の防止のために,養護者の困難に適した,養護者支援の仕組みを構築すべきである。

障害者総合支援法

2013年12月24日神奈川県川崎市議会勝又光江議員
「線維筋痛症の早期救済に関する質問」の映像
https://www.youtube.com/embed/3PsgLocb0WY






 

 
 

要望書

いよいよ、いわゆる「難病医療法」が施行され、「新しい難病対策」が形になろうとしています。
しかし、現在、線維筋痛症など慢性疼痛に苦しむ患者には、具体的・明確な国による救済策が打ち出されていないのが現状です。
この機会に、この間線維筋痛症友の会の理事会で話し合って作成している
要望書(抜粋)を公開いたします。
 
ここからが本当のスタートです。
今後厚生労働省等行政機関だけでなく、
様々な場でこの要望書と私たちの願いを発信していく予定です。
これからも継続的に行政をはじめ、色々な場で私たちの課題を知ってもらう、
考えてもらうことが大切だと思っています。
皆様のご理解・ご支援をお願いいたします。
 
※本資料を紹介等される場合は、必ず本ページ(へのリンク)をご利用ください。
無断転載等は固くお断りいたします。
研究・教育・啓発目的でこの資料を使われる際には、
個人/団体の別を問わずメール等で
友の会事務局宛てに転載等の可否をお問い合わせください。
 
(以下は2014年当時のものですので、今後改めて新要望書を発表する予定です。)
 
厚生労働大臣  様
厚生労働省 各担当部局 様
 
 
2014年 11月
NPO法人線維筋痛症友の会
〒233-0012 横浜市港南区上永谷2-12-11-102
理事長 橋本 裕子
 
 
「線維筋痛症患者救済に関する緊急要望書」
(抜粋)
 
私どもが抱える疾病「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」は原因不明の難治性の全身的慢性疼痛で、ICD10に収載されている疾病です。不眠や疲労などの多様な症状も呈しますが、眼に見えない痛みが主訴であるため、実際に痛みがあるのかどうか疑われることがあります。本邦では、2006年厚生労働省研究班の疫学調査がなされ、有病率は他の国と同程度の人口比1.7%(約200万人)だと発表されています。
 
この患者数に比して診察や治療をする医師は極めて限られており、入院施設もほとんどないというのが現実です。大多数の患者が、自分がこの病気であることを知らず、または受け入れ先を求めてさまよっている数年の間に症状が悪化してしまっています。発症から1~2年のうちに適切な治療をして寛解した例は多くありますので、早期治療できる体制にしなければなりません。200万人という総数を考えると国の損失は膨大であり、医療と福祉の受け入れがない線維筋痛症患者には最低限の生活もいまだに保障されていません。
 
厚生労働省科学特別研究事業として、線維筋痛症調査研究班が発足したのは2003年10月。この間、各方面の努力により医療環境が変化してきたのは事実です。しかし、200万人もの患者は、毎日痛みを抱え、日常生活の困難、経済的な問題をも抱え悲鳴を上げているのに、社会生活上は全く救いあげられていません。
このような中、本年5月30日に「難病患者に対する医療等に関する法律(以下『難病医療法』、および児童福祉法の一部を改正する法律が公布されました。自分たちの病気の治療研究が進み、医療費助成が受けられることに期待を持っている患者は多いでしょう。
しかし、今の時点では、第一条において、“難病”を「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病」と規定しており、200万人いるといわれる線維筋痛症患者全体がその対象となることは極めて困難です。現状では法に規定する「指定難病」とならない疾患は、医療費助成以外の施策においても対象外となる心配もあり、自分達が生きる希望を持てるような具体策は何ひとつ打ち出されていません。
 
重ねて、今年春施行された障害者総合支援法では、130疾患の「難病等」がサービス受給の対象になることが話題になりましたが、線維筋痛症は対象疾患として明確に指定されていません。その上、現行の介護保険法においてさえも介護保険特定疾病には指定されていません。「痛み」「疲労」などの症状によるQOL,ADLの著しい低下は、介護や支援が必要な「障害」ともみなされていないのです。適切な支援を受けることで、病気の悪化を防ぎ、早期の社会復帰に繋がるにもかかわらず、患者のみならず家族も追い詰められ、最悪の場合は患者自ら命を落とすケースが後をたちません。
 
現在、2015年からの難病医療施行に伴い、具体的にどの疾病を「指定難病」とするかが議論されたり、実際の患者負担の変更内容などが明らかになりつつあるなど、その動向が大きな注目を集めています。難病医療法による難病対策は、基本的に「希少難病」のみを対象としていますが、線維筋痛症のように、患者数が多くとも、長期にわたって日常生活、社会生活が破綻し、経済的困窮をきたす疾患も多くあるのです。それらの疾患に対しては、本来は新たな対策が打ち出されねばなりません。希少難病対策は当然必須ですが、希少でない難病も対策するのが国としての疾病対策であるはずです。何とか現状の制度を適切に運用してこの瞬間も生きる希望を失い、絶望の淵にある患者と家族をどうか救ってください。
 
1,重症線維筋痛症(推計12万人程度)を指定難病とし、
治療研究や患者の生活支援に力を尽くしてください。
 
全国の医療機関では、多数の重症患者が確認されています。線維筋痛症研究班による「重症度分類」は日々の診療の積み重ねからうまれたもので、2003年に試案が提唱されています。2012年7月より、年金機構が示した診断書に添付(または請求後に照会)する様式にも、この重症度分類が採用されています。(参照:線維筋痛症学会編:『線維筋痛症診療ガイドライン2013』11ページ)。この重症度分類のステージ「V」に該当する患者だけでも、12万人(同資料20ページより推計)と言われていますが、線維筋痛症患者に対する行政の手当てが全くなされていない現在、正確な重症患者数の把握はいまだに行われていません。行政の施策の土台に乗れなければ、実態把握さえもされない、それが今のシステムの現状でもあるのです。
線維筋痛症には、厚生労働省研究班や線維筋痛症学会によって、「診断基準」も、このような「重症度分類」もあります。「患者数」が問題となるのであれば、まずは最重症者だけでも指定難病としてその実態を把握し、治療研究の推進や患者の医療費負担軽減をはかる事を強く要望します。
 
2、線維筋痛症患者の「痛みや疲労による生活上の困難」を、生活機能障害として認め、
障害者総合支援法対象疾患見直しの際、線維筋痛症を新たに指定してください。


3、線維筋痛症を、「介護保険法」における介護保険特定疾病に加え、若年者であっても居宅支援の対象としてください。
 
2011年に改正された「障害者基本法」においては、「障害者の定義の見直し(第2条関係)」が行われています。従来の3領域の障害や、発達障害に加え、「その他の心身の機能の障害がある者」が明記されました。また、「障害および社会的障壁の有無」を新たな基準として、障害を捉えなおそうとする視点が反映されています。この流れのなかで、2013年4月より施行された「障害者総合支援法」にも、特定疾患の一部や関節リウマチ等の130疾患が、行政機関による障害者サービス対象に新たに加えられることになりました。しかし、線維筋痛症は、この130疾患にさえ指定されていません。
 
痛みや疲労による生活上の困難は、見た目ではわかりにくいものですが、線維筋痛症患者は、同じような症状を抱える関節リウマチ患者以上の痛みを感じて生活しているといわれます。他の16疾病と同様に介護保険特定疾病となるはずです。
ちょっとした支援で相当程度の生活の向上が期待できます。また症状が固定していなくても、症状が悪化しているときには誰かの介護と経済的支援が必要なのは言を待ちません。適切な支援を受けるためには、障害者総合支援法や介護保険法などの対象疾患として、線維筋痛症を新たに加える、現在見直しが行われている障害認定区分に、生活機能障害の概念を反映させる、等の対策が必要になってきます。
 
 
4、若年性線維筋痛症の実態を早急に把握し、
学校等教育機関への疾患に対する理解を促すなど、
必要な施策を講じてください。
 
 線維筋痛症に罹患するのは、成人だけではありません。
「若年性線維筋痛症」は、発症年齢が10歳前後(小学校4,5年生)に集中しています。特異な「全身の疼痛性疾患」で、常に全身痛を感じ、原因不明の筋・骨格系の疼痛や持続的な頭痛、腹痛を訴え、睡眠障害や慢性疲労感など、成人と同じような多彩な自覚症状を呈します。80%の例が不登校に至り、摂食障害や歩行困難に陥る児童もいると報告されています。
適切な診断・治療を受けることにより、症状が軽快・寛解し、学校生活、社会生活に復帰できる可能性が大きいにも関わらず、疾患への認知度が低く、周りの理解がないなかで、学校でも家庭でも放置されたまま孤独と辛い症状に苦しんでいる子ども達が多くいるのです。
 この次世代を担う子ども達が抱える深刻な現状を早急に把握していただきたい。そして若年性線維筋痛症の適切な診断と治療体制を確立する、学校等教育機関にも疾患に対する理解を促す等、必要な施策を講じてください。
 
5、線維筋痛症の根本的な病因や、
病型分類に関する調査研究を後退させないでください。

 
線維筋痛症患者の身体に何が起こっているか・・・「脳や神経の機能異常である」という説が、研究班の調査や全国の医師・研究機関の努力によって明らかになってきています。2012年6月には、初の線維筋痛症治療薬として『プレガバリン(リリカ)』が保険収載されました。その他の機序をもつ薬についても、順次治験が行われており、第二、第三の線維筋痛症治療薬が保険適用になる日も、夢ではなくなってきました。患者にとって治療の選択肢が増えることは、何より希望の持てることです。
 
しかし、その機能異常がどうして起こるのか、それはまだ明らかにされておらず、患者は「病気は気のせい」「脳の病気なのだから頑張れば治る」など、いわれのない偏見や、思い込みによって苦しい思いをしています。また根本的な病因が明らかになっていない中では根治療法にはまだ遠く、ドラッグラグが解消されつつあっても、対症療法による治療しかないのは、以前と変わりません。
 
やはり、線維筋痛症が治る病気になるのが、患者の一番の願いであり、国家の経済的損失を食い止める有効な手立てです。引き続き、線維筋痛症の病因や病型分類に関する調査研究は、何より優先して継続していただきたい。
 
6、慢性痛の総合的、横断的治療の調査研究を深め、
課題を整理して具体的施策につなげてください

 
2010年9月、「今後の慢性の痛み対策について」の提言が公表されました。線維筋痛症も、広くは慢性疼痛の一病態であり、様々な対策が必要であることは、検討会の場でも議論されました。
 
この提言を受けて、慢性疼痛の診療体制づくりや医療従事者向け教材、患者に対しての教育・相談業務に関しての研究費が計上され、一定の成果をあげています。
 
○ 難治性の痛みには、帯状疱疹後神経痛や脊髄の障害による痛み等の神経障害性疼痛、線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群のような原因不明の疾患、器質的原因が明らかでない歯科口腔外科領域の痛み等、様々な疾患による痛みが存在する。それらは、病態が十分に解明されておらず、診断も困難である。そのために、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い。 (提言より抜粋)

 
この提言には、医療機関での理解のみならず、広く社会に対して、慢性疼痛対策を行っていくことの必要性が謳われていますが、実際の施策や、慢性疼痛治療の実態に沿った医療制度、保険制度、福祉施策の改革まで踏み込んではいないのが現状です。
 
国際的には、慢性痛を総合的、横断的な方法で治療することが、ますます盛んになっています。投薬のみならず、リハビリテーション、カウンセリング、患者の生活自体の支援、家族や周りの支援者に対する協力、東洋医学の活用など、非薬物的療法に効果があることは、多くの調査で実証されているところです。
しかし、現行の保健医療制度で、それらの治療に保険点数が算定されず、それが、線維筋痛症をはじめとする慢性痛患者が、一般の医療機関でなかなか受け入れられない遠因ともなっていて、症状を少しでも改善しようとあがいている患者の障害となっています。
 
線維筋痛症などの慢性疼痛の治療には、多方面からのアプローチが必要です。リハビリテーションやカウンセリング、運動の指導などに、慢性痛の治療として適正な保険点数が算定され、患者がよりよい、安全な医療にアクセスする道すじが整ってはじめて、提言が具体化されたといわれるのではないでしょうか。
本提言も発表からすでに4年あまりが経過しています。最新の医学的知見、多様になってきた治療やケアを患者のもとに届け、慢性痛を治る病気にする道筋をつける段階にきているのではないでしょうか。
 
(以上 6項目)
 

声明文を発表2014.3.25

厚生労働大臣 田村憲久 様
厚生労働省 疾病対策課課長 田原克志 様
 
病名で、私たちを区切らないでください。
―「難病法案」に対する最大の懸念について―
 
これは、すべての人にとって重大な問題です。
 
日本の「難病対策」が大きく変わろうとしているなか、私たちも今回の改革案の動向を大きな期待をもって見守ってきました。特に今国会では、新しい「難病法案」(難病の患者に対する医療等に関する法律)と児童福祉法の改正案が提出されます。法的根拠のしっかりした、持続可能な難病・長期慢性疾患対策を構築するためには、必要な一歩だという一定の評価はできますし、対象疾患が大きく拡大される見込みであるために、新たな法案成立に期待を持っている患者は多いでしょう。
 
しかし、見逃されがちな重大な問題が、この新しい法案では未解決のままです。今回の「難病法案」でも、定められた基準にのっとり、対象者を限定していくやり方が、そのまま残されているのです。
2011年7月改正の障害者基本法では、病名による区別なく、すべての難病・長期慢性疾患患者が「障害者」に含まれることになりました。2014年1月20日に批准された障害者の権利に関する条約においても、障害(疾病による社会的障壁)のない人と、等しく基本的人権が保障され、共生する社会を実現することが確認されています。
しかし、今回の難病法案では、「難病」を規定する四要件のなかに、「希少性」概念・・・(おおむね人口の0.1%以下と省令で定める、とある)が導入されています。原案のまま法律が成立してしまえば、ほかの3つの要件を満たしていても、患者数の多い疾患は、最初から「指定難病」からは除外されてしまうのです。
 
例えば、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)などの、生活上の困難が著しくても患者数の多い疾患(全身に激しい痛みがはしる、身動きが取れないほどの倦怠感が持続するなどの多彩な症状がある)、I型糖尿病など、明らかな内部機能の障害があり、命を維持するために必要な医療があるにかかわらず、医療費の自己負担を余儀なくされている疾患。また、「診断基準」を満たさないがために、いまだに病名がつかず、一定の基準を満たさないから支援が受けられない患者・・・。
今の「難病法案」では、このような患者たちには、自分達が生きる希望を持てるような具体案は何ひとつ打ち出されていないのです。
 
支援の対象者を決めるために、「病名」「患者数」など、個々人の患者の生活上の困難とは、本来関係ない基準で対象者が決まっていく限り、いつまでも、対象とならず取り残される命がうまれてしまうのです。
「中には病気になる人もいる」ことは、生物としての多様性を持つ人類にとっての必然でしょう。しかし、私たち病者が抱えるこの問題は、なかなか社会全体のものとしてとらえられていません。
科学、医療がいかに進歩しても、経済的な理由で治療をあきらめる人たちは、懸念されるTPPや混合医療の問題の行方を待たずして、今すでに多くいます。
 
今回の「難病法案」の制定が、すべての人が、安心して医療を受けられる体制を整える一歩になって欲しいと願っています。障害・疾病のある人が、適切な医療を受けつつ、障害・疾病のない人と等しく基本的人権が保障されて、共に生命を謳歌できる社会の実現に向けて、どうか知恵とまなざしを向けてください。
新しい患者の希望となるべき「難病法案」が、熟議のもとに制定され、今国会で批准された障害者の権利に関する条約および、前述の障害者基本法をはじめとする関連法規の趣旨を遵守したものになるよう、強く要望します。
 
私たちを・・・この社会に生きる全ての命を、病名で区切らないでください。
 
2014年3月25
 
呼びかけ人・団体代表(連絡先)
NPO法人線維筋痛症友の会
〒233-0012 横浜市港南区上永谷2-12-11-102
(理事長 橋本 裕子)
 
(呼びかけ人一覧)※3月11日現在・順不同
個人 
青木 志帆(弁護士) 浅枝 まり子(フリーアナウンサー) 東 奈央(弁護士)
熊谷 晋一郎(小児科医) 佐藤 久夫(日本社会事業大学特任教授)
白井 誠一朗(社会福祉士) 丹波 博紀(大学講師) 長岡 健太郎(弁護士)
松波 めぐみ(大阪市立大学他非常勤講師)
団体
きょうされん大阪支部
障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現を目指す大阪の会
障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現を目指す和歌山の会
タニマーによる制度の谷間をなくす会
難病をもつ人の地域自立生活を確立する会
ポリオの会
★(NPO法人) 線維筋痛症友の会 
 
★呼びかけ人・団体代表/事務局団体
 

厚生労働省発表・JPAからのお知らせ











 

医学関連のお知らせ

《慢性疼痛患者のためのセルフケアガイドブック》
厚労省「慢性疼痛患者に対する
    統合医療的セルフケアプログラム構築」班による
「慢性疼痛患者のためのセルフケアガイドブック」がインターネットでダウンロードできます。
1部500円でお分けしていますので友の事務局 jfsa@e-mail.jpにお知らせください。


http://selfmanagement.jp/wp-content/themes/selfmanagement/images/2014_guideline.pdf



meiji seika ファルマのホームページにある「専門医に聞く」では
線維筋痛症について岡寛先生が解説をされています。
どうぞご覧ください。

http://www.meiji-seika-pharma.co.jp/fmnavi/ask/
 


メディカルトリビューン 健康百科 に掲載
全身が痛む線維筋痛症、痛みの程度測る装置も・・・

このサイトでは日常の健康に関しても調べることができます。

http://kenko100.jp/kenko/2012/08/17/02



NHKニュースによると

難病患者の歩行訓練にロボットスーツ が有効か、臨床試験が始まったということです。

3月5日 4時17分発表です。

難病で筋力が衰えた患者の歩行訓練に、立ったり歩いたりする動作を補助するロボットスーツが有効かどうか確認する臨床試験が6日から、全国10か所の医療機関で始まることになりました。
このロボットスーツは脚を動かそうとするときに皮膚の表面に流れるごく弱い電流を検出し、両脚に添え木のように装着した器具をモーターで動かして立ったり歩いたりする動作を補助する仕組みです。
高齢者向けなどとして実用化されているものの改良型で難病患者の主治医らで作る研究グループが、健康保険の適用を目指して厚生労働省に臨床試験の実施を申請し、認められたということです。
臨床試験では、筋ジストロフィーなど神経や筋肉の難病で18歳以上の30人にリハビリの際、2週間前後、ロボットスーツを装着してもらい、つけない場合に比べどの程度、歩行機能が改善するか調べる計画です。
研究グループは6日から、全国10か所の医療機関で臨床試験を始め、有効性が確認できれば、歩行訓練用の医療機器として国に承認を求め、ロボットスーツの普及を図りたいとしています。
研究グループの代表を務める、国立病院機構新潟病院の中島孝副院長は、「ロボットスーツを装着すると筋力の衰えた患者も意図したとおりの動きを繰り返し行うことができる。難病患者のための新しい医療機器を発信する第一歩にしたい」と話しています。